エッセイ クリンギット族とわたし あずみ虫
わたしは、毎年春から秋まで半年間アラスカに滞在しています。アラスカには広大な原野や森林などの豊かな自然があり、ヒグマ、トナカイ、ザトウクジラ、ラッコ、アザラシといった、たくさんの野生動物が生息しています。わたしは野生動物の絵本をつくりたくて、2018年から動物観察をするためにアラスカへ行くようになりました。
そして、アラスカでくらすうちに、この土地にむかしから住んでいる先住民族の、クリンギット族の人たちと友だちになりました。アラスカの先住民族は、日本人と同じ モンゴロイドの人種です。わたしとよくにたはだの色で、黒髪のクリンギット族の人たちに親しみを感じ、いっしょにすごすなかでいろいろなことを教わりました。
クリンギット族が多く住んでいるバラノフ島のシトカという町には、春になるとた くさんのニシンが産卵のために海岸近くまでやってきます。クリンギット族の人たちは、むかしからつたわる技法で卵を海から収穫します。ヘムロックという木の枝を海のなかに入れておくと、そこにニシンがたまごをうみつけるので、枝ごとたまごを収穫するのです。収穫したたまごはみんなでわけあって食べます。熱湯にさっとくぐら せて食べるしんせんなたまごはとてもおいしくて感動しました。夏になると、あちこちにサーモンベリーが実り、かれらといっしょにベリーをつんでジャムをつくりました。夏の終わりから秋にかけては、川にかえってくるたくさんのサーモンをつり、木の小屋でサーモンをけむりでいぶして、保存食のスモーク・サーモンをつくります。土地の自然の恵みを、みんなでわけあったり、保存食にして大切にいただくくらしは、とても豊かですばらしいと思いました。
クリンギット族のおまつりでは、長老の人たちの話を聞き、大人も子どももえがおでニシンのたまごやサーモン、ハリバット(オヒョウ)などの郷土料理を食べて、ドラムの音にあわせてみんなで歌いおどります。いつもは現代的な洋服を着ているかれらですが、おまつりのときには美しい民族衣装を着ます。クリンギット族の人はみん な、母親から代だい受けつぐ動物のクラン(家系)をもっています。クランには、ワタリガラス、ハクトウワシ、サーモン、シャチ、クマ、オオカミ、カエルといったいろいろな動物がいて、民族衣装にはそれぞれ自分の動物の絵がらを入れます。クリンギット族の人たちは自分のルーツ(祖先)を大事にしているのです。そして動物と人間を近しいものと考え、むかしから動物のそんざいをそんけいし、大切にしてきたのだと感じます。この絵本を読んでくれたみなさんが、このワタリガラスの物語を楽しみ、クリンギット族の文化を感じてくださったら、とてもうれしいです。
(※絵本巻末のエッセイを一部抜粋したものです)